お役立ちコラム

沖縄の年中行事、健康祈願を行う「菊酒(チクザキ)とは

沖縄には、さまざまな年中行事がありますが、「菊酒」(チクザキ)もその一つです。

菊酒は五節句のひとつ「重陽の節句」に、日本全国でもお祝いされる節句の行事ですが、端午の節句や桃の節句に比べると、その認知度は低く、お祝いをしない家庭も増えています。

日本の国花でもある、菊を用いた御願行事。簡単に行えるので、家族の健康祈願の行事として、ぜひ取り入れたいですね。

菊酒が行われる『節句』とは

節句とは「季節の節目となる日」のことを言います。もともとは、奈良時代の頃に中国から伝わった「陰陽五行説」が由来とされており、季節の節目の行事として大切にされてきました。

中国から伝わってきた当初は、日本では貴族の宮中行事として取り入れられていました。その頃は中国から伝来したばかりの珍しい菊を眺めながら宴を開き、菊を使って厄祓いや長寿祈願をしていたようです。それが時代とともに民間にも広がり、江戸時代には広く親しまれるようになりました。

節句が広まった当初は、いくつもの節句の種類がありましたが、江戸幕府が特に重要な節句として、5つの節句を「五節句」に制定しました。

【五節句】

1月7日…人日(じんじつ)の節句(七草の節句)

3月3日…上巳の節句(桃の節句)

5月5日…端午の節句(菖蒲の節句)

7月7日…七夕の節句(星祭り)

9月9日…重陽の節句(菊の節句)

五節句は、それぞれに植物が彩られるのが特徴です。節句といえば、3月3日の節句は「桃の節句」、5月5日の節句は「端午の節句」とも言われ、「ひな祭り」「こどもの日」として祝われているため、馴染みのある方も多いですよね。

そのほか、七草粥を食べる「人日の節句」や「七夕の節句」も行う家庭は多いですが、「菊の節句」は、知らない方も多いようです。若い方にとっては、聞き馴染みのない行事かもしれませんね。

五節句の中で、一年の節句の締めくくりとなり、重要とされてきたのが、9月9日の重陽の節句です。

中国から伝わった「陰陽思想」

中国には陰陽思想というものがあって、全てのものは「陰」と「陽」で成り立っているという考えがあります。

陰陽思想の世界では、偶数が「陰」、奇数が「陽」を表しており、「九」という数字は陽の気が極まった数字と考えられていました。

五節句の中でも、一番大きな陽数である「9」が重なる「9月9日」を、陽が重なると書いて「重陽の節句」と定められました。とてもおめでたい日として、不老長寿や子孫繁栄を願う行事として行なってきたのです。

重陽の節句では、繁栄や不老長寿、健康を願うための行事が全国的にも行われています。本土で用意されるのは、菊の花をお酒につけた菊酒ですが、沖縄では、菊の葉をお酒に入れた菊酒を用意して、健康を祈願します。

しかし、さまざまな行事が簡素化され、なくなっていくなかで菊の節句を行わなくなっている家庭も多いです。

また、沖縄では、健康祈願のほかに、家から離れている人々や大工さん、山仕事・鍛冶仕事などの仕事をしている人々の手足を守るためにも御願が行われました。

  この拝みは「手足の御願」と言う意味のある「ティフィサヌウニゲー」とよばれ、一日かけて行われていたそうです。

重陽の節句に用いられる「菊」

菊は元々、薬草としても使われ、香りは邪気を祓うとも言われています。菊は観賞用だけでなく、薬草としても用いられて、延寿の力があるとされてきました。寿命を延ばすと信じられていた菊を使って、さまざまな風習が伝えられています。

菊には、「菊慈童(きくじどう) 」という、伝説の話もあります。

中国の周の時代、穆王には、寵愛する慈童という名の子どもがいたのですが、ある時彼は誤って王の枕をまたいでしまいました。

それにより重罪となった彼でしたが、彼を助けたいと思う王により、流罪となりました。
王の形見の枕を抱き、遥か深山幽谷へと行かされた慈童。彼はそこで仏徳を讃える偈(げ)を菊の葉に書き写しました。

その葉に溜まった水が不老不死の「菊の酒」となり、それを飲むことで慈童は少年のまま700年も生きたという話です。

菊にはそれほどの効能が期待されるのかもしれませんね。

 チクザキ(菊酒)の供え方

沖縄の御願といえば、重箱や白餅など、手のかかるものが多いですが、菊酒は菊とお酒があれば完成する、シンプルな御願です。

菊酒(チクザキ)では、他の御願と同じように、ヒヌカンとご先祖(トートーメー)へお供えして拝みます。お供えは簡単で、まずはヒヌカンに日々のお供え物としてお塩、水、供え葉を用意します。お仏壇へは、供え花、ウチャトゥ(お茶)とお酒をお供えします。

次に、菊酒を用意します。ヒヌカンへは3枚、お仏壇へは2枚のお皿を用意します。

菊の花束から葉の部分を切り取り、各お皿に3枚ずつ葉を並べます。その上から、お酒をこぼれない程度になみなみに入れて完成です。それをヒヌカン、お仏壇へお供えし拝みます。

チクザキ(菊酒)の拝みでは、拝む時に供えるヒラウコー(沖縄線香)は、ヒヌカン(火の神様)へは、タヒラ半(2枚と半分)、お仏壇へはタヒラ(2枚)を用意します。

最初に家長がヒラウコーを供えて拝み、次に集まっている家族がヒラウコーを供えます。 家族のヒラウコーはそれぞれ半分を供え、皆で拝みます。

本土との違いは、使うのは菊の花ではなく、葉の部分なので、購入する際には、葉の枚数をよく確認しましょう。お花の部分は使わないので、お部屋に飾るなどするのも良いですね。

菊酒(チクザキ)での御願では、おかげ様で家族みんなが何事もなく、健やかに菊酒(チクザキ)の日を迎えられたことや、この家に暮らす家族みなが健康に穏やかに暮らすことができるよう、祈願します。

御願のあとは、ウサンデーします。ウサンデーとは、集まった人々で、お供え物やお食事をいただくことです。お酒が使われる菊酒(チクザキ)の場合、子どもは飲めませんよね。

子どもへは、お父さんやお母さんが、指につけておでこにちょんちょんちょんと、3回つけてあげるのが習わしです。

これは沖縄の方言で「ウビナディ」(御水撫で)といいます。これなら、子どもも一緒に安心して御願ができますね。

伝えていきたい菊の節句

古くから伝わる伝統行事ですが、行う家庭も少なくなってきた菊酒(チクザキ)。本土のように菊の花ではなく菊の葉を使う部分が違いますが、他の年中行事に比べても簡単にできるので、これまで菊の節句を行っていなかった方も、ぜひ取り入れて家族の健康を祈願したいものです。

また、日本の国花でもあるので、こうした機会にあらためて、じっくりと眺めてみるのもよいですね。

照屋漆器では、ヒヌカンやトートーメーに関することなど、ご相談を承っております。
気になることがあればぜひお気軽に、スタッフまでお声かけください。専門知識豊富なスタッフがお手伝いいたします。